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写真と絵画

 二〇〇七年 六月一六日。



 マルレーネ・デュマス ― ブロークン・ホワイト      東京都現代美術館



 最近コンセプチュアルな事ばかり考えて色や形や質感に対する感受性が薄れたのか、そもそもそんなものは初めから持っていなかったのか、それとも、彼女の作品は私が思っているほど単純な絵画作品ではないのか、ほとんどの作品は見ても何をどう感じていいのか分からなかった。或いは、彼女の作品独特の文法みたいなものがあって、私がそれに馴染んでいなかっただけかもしれない。

 かろうじて、荒木経惟の写真作品をもとにした「ブロークン・ホワイト」(2006)だけが印象に残った。

 もとになった荒木経惟の写真と「ブロークン・ホワイト」を何度も見比べた。

 もとになった荒木経惟の写真の女性の表情は明確な性的恍惚を表しているが、デュマスの「ブロークン・ホワイト」の方は深い物思いに沈んでいるようにも、単に眠っているようにも見える。塗り重ねられた筆の跡の油絵具のざらざらした物質感から、作品に投影された作者のさまざまな思いを感じる。

 写真は彫刻や絵画と違って、作者が作品に直接触れていじくる事が出来ない。だから、写真は何をどのような意図を持って写すかかが問題であり、非常にコンセプチュアルな表現であると感じた。

 それに対して、絵画は目の前の作品を直接手でいじくりながら考え、考えながらいじくれる。だから、描きながら、そこにさまざまな思いを塗り込む事が出来る。



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|美術館・博物館 | 15:05 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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リアルなフィクション

 二〇〇七年 五月二十五日。



 靉光展      東京国立近代美術館



 油絵よりも、墨と面相筆で細かく描き込まれた「二重像」(1941)のような作品が印象に残った。私は極度の集中と執念を感じさせる、執拗で稠密な表現が好きなのかもしれない。

 全体としては、若い頃の試行錯誤の後の、戦時中の張り詰めた雰囲気の作品が好かった。






 リアルのためのフィクション      東京国立近代美術館



 ポール・オースターの小説「リヴァイアサン」の中に自分をモデルとした人物を登場させる事を認めるかわりに、自分がその登場人物が小説の中で行った事を実際に行い、それを言葉と写真で記録したソフィ・カルの「B、C、W」(1998)が好かった。

 フィクションの中の人物の行為を現実に行い、それを記録するという非常に意識的な行為と、自らの行為を極度に客観化する事で、自らの存在そのものがフィクションのようになっていく感じに興味を持った。



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|美術館・博物館 | 05:38 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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物語性

二〇〇七年 五月。


 「ロード・オブ・ザ・リングス」のオンラインゲームを知った。独特の雰囲気があって、魅力的な世界だった。

 Second Lifeは実在の企業が進出していたり、ゲーム内の通貨が現実の通貨と交換可能だったりして、現実の世界と繋がっている感じが魅力だ。それに対してロード・オブ・ザ・リングスは現実とは何の関係もない、閉じた世界だ。しかし、ただ稼いで、それを消費するだけという状態に陥りがちなSecond Lifeに比べて、ロード・オブ・ザ・リングスには物語がある。この先には何があるのだろう、何が起こるのだろうというわくわく感がある。

 MMORPGはプレイしていると、時間や現実の社会に対する現実感が麻痺する感じがする。しかし、同時に普段はああでもない、こうでもないと細かい事を強迫的に気にしてしまうのだが、ゲームの中のストーリー展開に身を委ねていると、細かい事は気にせずとにかく目の前の事に集中できる感じだった。

 やはりゲームには、物語が重要なのだ。この前秋葉原のゲームセンターに行ったら、ガンダムのゲームに行列が出来ていた。自分のよく知っている物語世界の中に入り込んでプレイするという事に、喜びを見出しているのだろう。

 物語というのはゲームの中だけの話であって、複雑な現実の世界の中では単純に纏まった物語など見出せるはずないと思っていた。物語などに頼らずに、理解不能なこの世界を生きる覚悟が必要なのだとどこかで思っていた。

 しかし、物語の持つ力を考えると、実際には現実の人生でも魅力的な物語を紡いでいく必要があるのかもしれない。そういえば以前は、自らの人生そのものをひとつの表現としようなどと考えたりした。つまり、それは自らの人生の舞台の上で主人公を演じるという事で、それは物語の中を生きていく事と何の矛盾もない。

 或いは、物語性を嫌っていたのではなく、複雑で儘ならぬ現実から逃げて、ゲームの中の単純な目的とルールに身を委ねようとする自分を嫌っていたのかもしれない。



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|この身体、この精神 | 05:06 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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個別の問題

 二〇〇七年 五月五日。


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 日本美術が笑う        森美術館


 近代以前の日本美術が、どんなものだったのか気になった。特にこの間西洋美術館で見た作品と同時代の日本美術がどうだったのか興味があった。

 明治以後に流派から抜け出して、伝統的な画材を使いつつ、世界に通用する絵画を生み出そうという動きが日本画だ。しかし、今目の前にあるそれ以前の絵画が日本画に比べて劣っているふうには見えなかった。

 ぼさぼさの頭で不気味な笑みを浮かべている寒山拾得図が何点か展示してある。雪村のものが一番気に入った。

 この前西洋美術館で見たヨーロッパの絵画と、同時期の日本の絵画を比べると、随分と雰囲気が違う。

 ヨーロッパは自らの思想を深めるために芸術と向き合う感じがあったが、日本の絵画はあくまでも日々の生活を彩るものであり、酷く日常的な感じがした。






 笑い展          森美術館



 最初のセクションにフルクサスの作品が並べてあった。

 この間国立新美術館でフルクサスの作品を見たときは、まとまりのない雑多な物の集積にしか見えなかった。しかし、それはそれ以前の美術との連続性の中で見ていたからで、今現在の美術から振り返る形で見てみると、特に違和感なく彼らのアイデアは面白いと思えた。



 一群のフルクサスの作品から離れて、先に進む。



 壁にかけられたモニターにスニーカーを履いた足が映っている。靴紐の先に糸が結び付けられ、上に伸びている。その糸が不器用に少しずつ引っ張られる事で、靴紐がほどける。

 その作品には「勃起でくつひもをほどく」(マッズ・リネラップ 2003)という題がついている。

 後ろの二人組みの女性がニヤニヤしながら「頑張れ」などと言っている。

 しかし、多分これは指で引っ張っているだけだ。これは題名のつけ方が肝であり、題名次第でどうとでも見えるという事だろう。

 


 先に進むほど、特定の地域や国の文化的、政治的な個別の状況を扱った作品が増えた。よく知らない国の文化や政治に対する批判やパロディやその状況下での個人的体験を作品として見せられても、なかなかすぐにはピンと来ない。

 これがポストモダンという事なのかと思った。モダニズムは国や民族を越えた合理性を追究したが、最近はとりあえず目の前の個別の問題を追究しているという事だ。

 とにかく作品の量が多過ぎる。おかげで動きのある映像作品やインスタレーションばかりに時間を使ってしまって、動きのない絵画などはつい素通りに近くなってしまう。






 展示室を出て、エレベーターに向かう。

 シティビューの入口の隣のスペースで、よく貸し切りのイベントをやっている。

 その日も何かのイベントをやっていて、天井に青や紫の光が音楽に合わせてちらちら動いている。レストランというかイベントスペースというかの入口には、黒いスーツを着たごつい黒人が立っている。まるでSecond Lifeの中のようだ。

 その日は外国人が多く、エレベーターの中では英語と中国語と何語か分からない言葉が飛び交っている。ますますSecond Lifeのようだ。



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|美術館・博物館 | 03:39 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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怠惰

 二〇〇七年 四月。


 瞑想する事で身体感覚が変化した経験から、収功だけしていても駄目なのだと感じるようになった。

 しかし、面倒で結局収功も瞑想もしない日々が続いた。

 瞑想した後の数日は、これからこんな事も出来るようになるのではないか、あんな事も出来るようになるのではないかという期待感で有頂天になったかと思うと、次の瞬間には疲れ果てて、どうしていいのか分からない気分になるという風に、気分的にかなり不安定な状態になった。

 だが、収功も瞑想もしない日々が続くうちに、単純に身体が重くてだるい感じに落ち着いた。そして、だらだらと愚痴でも垂れ流したい気分になった。



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|この身体、この精神 | 05:29 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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