PREV| PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

アートの祭典

 二〇〇五年 十二月二日。


 この間病院に行ったときよりも早く家を出ようと思っていたが、一時間以上も送れて家を出た。

 京浜急行に乗り込んだ。地下鉄の壁に沿って取り付けられた椅子と違って、全ての椅子が進行方向を向いた車両だった。加速するときの背中がシートに押し付けられる感覚が、心地好い。京浜急行の車両は、他の路線の車両よりも加速性能が良い気がする。ホームを動き始めると、スーッとスムーズに加速する。線路わきの電柱も車両に近い気がして、余計にスピードを感じた。




yokotri00.jpg



 横浜トリエンナーレ2005の会場の入口に着いたら、もう午後一時半だった。



yokotri01.jpg

yokotri02.jpg

yokotri03.jpg

yokotri04.jpg




 ダニエル・ビュランの赤と白のストライプの三角旗のインスタレーションの下を、会場に向かって歩いた。
 横浜港の風景を眺めながら、以前もよくひとりでいろいろなところに出掛けた事を思い出した。十年前は今とあまり変わらないが、十五年前は今と随分違う気分だった気がする。十五年前はこの世界はどこまでも広がっていて、それと同じぐらい自分の可能性も拡がっているかに思えた。今では自分の人生で出来る事など高が知れている気がするし、世界もすっかり広がりを失って静まって見える。



 二時から堀尾貞治+現場芸術集団「空気」のパフォーマンスがあるのだが、腹が減ったからまずコクサイヤタイムラなる場所に向かった。



 コクサイヤタイムラにはいくつかの屋台があったが、客が全くいない。前日にネットで見た「ボロネーゼ丼」を食べた。不味くはないが、何度でも食べたいと思うほど美味しいわけでもなかった。チーズをトッピングして六五〇円という値段を考えれば、妥当なところかもしれない。

 ボロネーゼ丼を食ったら、二時を十分ほど過ぎていた。会場は山下埠頭の先っぽの二つの倉庫で構成されていて、その二つの倉庫の間はナカニワと名づけられている。堀尾貞治+現場芸術集団「空気」のパフォーマンスを見るためにナカニワに急いだが、パフォーマンスはちょうど終わったところだった。



 ナカニワを眺めると、円形に電話ボックスが並べられた場所がある。岩井成昭の作品だ。電話ボックスの中に入ると、電話機に受信専用と書かれている。受話器をとると、洗濯物を入れといてくれとか、いつも帰りが遅いようだが仕事が忙しいのかとか、いくつかのパターンで母親が一方的に話し掛けてくる。外から見ている人は本物の電話ボックスに見えるのかもしれないと、メモを取る真似をして遊んでみた。



 倉庫の中に戻るとカフェのような場所があった。プレイヤーの備え付けられたブースの中で、DVDを見る。カウンターに表示されている横浜市民から集めたインドに関するいくつかの質問の中からひとつ選ぶと、その回答がDVDとして渡されるのだ。DVDを見ていても、意味が分からない。見ているうちにこれがどんな質問に対する回答だったのかも忘れてしまった。
 これはオープンサークル(インタビューその1その2)というグループの作品なのだが、このグループは何年も継続して活動していて、ここでちょこっと見てその活動を完全に理解できるものではない。オン・ケンセンインタビュー)のフライング・サーカス・プロジェクトやル・ジェ(盧傑)(インタビュー第一弾、第二弾その1その2)のロングマーチにしても、そのような何年も掛けて進行中のプロジェクトをここでちらっと見て、きちんと理解し、正当に評価できた人はいるのだろうか。この時点で作品を理解しようとする努力を、諦めてしまった。



 るさんちまんの作品の中に九官鳥がいて、作品自体よりもその人懐こい九官鳥ばかりが印象に残った。

 壁に押し付けられたタイヤが回転しているミハエル・サイルストルファーの作品。ゴムの焼ける臭いと削りカスを残して擦り減っていくタイヤを眺めていると、時間はただ擦り減っていくように見えて、それだけではないんだ等と感傷的な気分になった。

 プラスチックのケースを積み上げて造られたヴォルフガング・ヴィンター&ベルトルト・ホルベルトの展望台は、展望台そのものも横浜の港の景色も美しかった。私はこうやって中に入ったり、触ったり出来る作品が好きなようだ。



 前回のトリエンナーレはみなとみらい地区という横浜でも一番賑やかな場所で今回よりも大きな規模で行われ、主催者の意気込みを感じたが、今回は山下埠頭の先っぽという横浜港の外れでひっそりと行われている感じで、内容も軽く感じる(こういう形になった経緯がここで聞けます)。その軽さのせいか、あるいは、作品を理解しようとする努力を放棄してしまったせいか、長く多くの作品を眺めていてもなぜか疲れを感じない。



 サッカーのボードゲームをプレイヤーの大きさを実物の2/1スケールまで拡大した、KOSUGE1-16+アトリエ・ワン+ヨココムの作品。私はサッカーのボードゲームというものをやった事がなく、あんな単純な動きしか出来ないゲームが面白いはずがないと思っていたが、やってみると意外と面白い事を発見した。あるいは、このゲームは巨大でひとりでは操作できなくて、見知らぬ人たちと協力してゲームを進めるのが楽しかったのか。隣で他のプレイヤーを操作する若い男性が、一日これをやっていても好いぐらいだというような事を言っていて、何だかこのトリエンナーレへの皮肉に思えた。(KOSUGE1-16、アトリエ・ワン、ヨココム、広瀬一郎氏のトークが聞けます。その1その2その3その4。この作品の意図が分かります。トークの中に出てきた実践という考えが気に入りました。私も試行錯誤と言う言葉が好きで、試行錯誤の中でどこまでも派生していく問題意識を、どこまで追いかけられるかがその人の生きる覚悟だと思います)



 板で出来た小屋というか箱があって、百円玉を入れて、お品書きから選んで注文すると中から絵が出てくる。中で何が行われているのかは分からない。という堀尾貞治+現場芸術集団「空気」(インタビュー)の百均絵画というパフォーマンス。SADA絵画を注文した。出てきたのは、青い台紙の上にドアが写った写真が貼ってあって、ドアの部分に切れ込みが入っているというものだった。隣に立っていた現場芸術集団「空気」の一員と思われる女性が唐突に、
 「ドアのところに切れ込みが入っている。いやー、オシャレだねー」
 と喋り掛けてくる。
 これはこの絵自体がどうというより、このパフォーマンスに参加した記念というか、お土産みたいなものだろう。

 

 そこは映像作品が集められた一角で、薄暗くなっている。高さ十センチほどの海から見た海岸線の写真のようなものが、帯状に延々と倉庫の壁に沿ってぐるりと張り巡らされて光っている。インゴ・ギュンターインタビュー)の作品。にわかに意味を理解する事は出来なかったが、単純に美しかった。



 誰もが気軽にアートを表現し、そして消費する五十年後の世界を舞台としたモノポリーのようなゲームが行われているキュレーターマン(ナウィン・ラワンチャイクンを中心としたグループ(インタビューその1その2))のインスタレーション。そこでは、一握りの成功者を中心に全てが回転する「中心と周辺」のマートと、アートという「あまり知られていない場所」との戦いが描かれている。
 今でもネット上ではたくさんの写真やイラストや小説などが気軽にアップされ、そして、誰もが無料でそれを眺められる。でも、その気軽さが全ての表現を単なる暇つぶしに過ぎなくしてしまう気がする。



 夕方から、会場内で現代詩の夕べというイベントがあった。司会の今回のトリエンナーレ総合ディレクターである川俣正氏が、このトリエンナーレのディレクターを務める上で、さまざまな人たちにいろいろ説明したり、話したりする機会があって、言葉による表現の重要さを再認識し、こういうイベントを考えたというような事を話した。
 段取りが悪く、なかなか詩の朗読が始まらない。招かれた白石かずこという詩人がどこへ行って、誰と会って、どうしたという話を延々としている。でも、私は白石という詩人を全く知らなかったからいろいろ話を聞いたおかげで、朗読を聴いたとき理解しやすかった。
 このイベントを聴いているうち、だんだんリラックスした気分になってきていた。今回のトリエンナーレはあまり展示してある作品ひとつひとつに神経質にこだわるのではなく、このように毎日開かれるさまざまなイベントを何となく楽しめれば好いのかもしれない。



 現代詩の夕べの後、このトリエンナーレは、祭典というには盛り上がりに欠けるが、この独特の静かな興奮とリラックスの入り混じった雰囲気を楽しむものなのかなどと考えながら、しばらく会場をぶらついた。会場の広さから一日あれば十分全ての作品を見られると考えていたが、何度か通ってゆっくり征服すべきだった。楽しみ方をやっと理解したところで、時間切れ、電池切れ、という感じで会場を後にした。




yokotri05.jpg

yokotri06.jpg

yokotri07.jpg



ランキングに参加しています。下のバナーをクリックしていただけたら、ありがたいです。

|美術館・博物館 | 03:02 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます

| | 2006/02/07 23:04 | | ≫ EDIT

コメントありがとうございます。
管理人のみ閲覧可能のコメントをもらうのが初めてだったので、
最初どうやって見たら好いのか戸惑ってしまいましたww

| 弘毅 | 2006/02/08 00:25 | URL | ≫ EDIT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://mimurotokouki.blog14.fc2.com/tb.php/80-7732d63f

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT